主なトピック
- 金属材料の凝固・鋳造プロセスにおける組織制御法の開発
- 半導体材料の結晶成長プロセスにおける固液界面反応ダイナミクスの解析
- 放射光を用いた融液からの凝固・結晶成長ダイナミクスの時間分解・直接観察および定量解析
- マルチモーダル放射光X線高温イメージング技術の開発
金属は二度固まる!? 金属融液の多段階核生成現象
- T. Narumi et al., ISIJ International, 64(2024) 1758–1767.
https://doi.org/10.2355/isijinternational.ISIJINT-2024-185 - はじめに
鉄やチタンなどは同素変態(polymophism)を示す代表的な金属です。これらの金属を基とする合金の融液が過冷却状態となると、安定相と準安定相の核生成が競合します。準安定相の核生成が選択された場合、平衡凝固では考えられないような魅力的な凝固組織が得られる場合があり、自由自在に制御できれば、金属材料の特性向上に結びつく可能性があります。
当研究室では、主に鉄合金(鋼)を対象として、放射光イメージングを駆使し、準安定相の核生成選択を起点とする非平衡凝固現象(準安定凝固現象)の機構解明を目指しています。 - 観察試料
本研究では、高張力鋼の基本組成の一つであるFe-22Mn-0.7C合金(mass%)を用いました。Mnを鋼に多量に添加すると、平衡状態図上では融液から晶出する相(安定相)がフェライト(δ)からオーステナイト(γ)に変わります。

- X線ラジオグラフィー
ラジオグラフ(透過像)により、どのように準安定フェライトの結晶が成長し、オーステナイトに相変態するのかがありのまま捉えることができました。準安定フェライトの核生成を誘起させ、定常的に成長できると、化学成分の不均一(偏析)が低減できます。微細粒組織が得られることと合わせて、平衡凝固では考えられない無偏析・超微細粒組織を得る新しい凝固組織制御概念の提示を目指しています。 - 時間分解トモグラフィーのセットアップを用いた時間分解X線回折測定
X線回折測定では格子構造に即したX線回折パターンが得られます。これを時分割で行うと、どのような格子構造の結晶が生成し、その構造が変化するのかを直接観察できるようになります。鋳造プロセスに即した条件でFe-Mn-C合金融液を冷却すると、準安定相のフェライト(δ)の核生成が優先的に起きることが明らかになりました。また、準安定相から安定相であるオーステナイト(γ)に相変態する際、回折パターンの斑点の数が急激に増加しており、微細なオーステナイト粒組織が形成しています。

お餅が「割れ」る!? 金属合金の固液共存領域の力学挙動
- T. Narumi et al., ISIJ International, 61(2021) 1567–1578.
https://doi.org/10.2355/isijinternational.ISIJINT-2020-650 - はじめに
金属材料の鋳造プロセスでは、内的(凝固収縮・熱ひずみ)や外的(鋳造方法による外力や重力)要因によって半凝固状態の材料(固液共存体)に応力が作用し、変形する場合があります。固液共存体が変形すると割れや空洞といったマクロスケールの材料欠陥(凝固欠陥・鋳造欠陥)の形成に繋がり、鋳造プロセスの生産性や鋳造材の品質に影響を及ぼします。
金属融液および高温の固相の力学的性質はそれぞれ流体力学および粘弾性体力学によって記述することができ、特に高温の固相は「お餅」のように変形するといえます。しかし、それらの混合体である固液共存体は、容易に「割れ」ることが知られています。固液共存体が示すみかけの体積膨張(ダイラタンシー)やせん断に対する不安定性といった特徴的な力学挙動は、流体力学や粘弾性体力学だけで説明することができないため、固液共存体のダイナミクスの理解は学術・応用の両面で大きな意義があります。
当研究室では、固液共存体の力学挙動を直接評価できる放射光イメージング手法の開発を進めています。 - 観察試料
本研究では、Al-10mass%Cu合金を用いました。AlとCuは周期表で一段異なり、CuのX線吸収係数はAlのそれのおよそ10倍です。固液共存状態のAl-10mass%Cu合金では、液相のCu濃度の方が固相より高く、固液のX線吸収コントラストが得られ、X線イメージングに適した合金系です。また、融解温度が他の金属合金より低いため、実験を行う上でのメリットでもあります。円柱上に加工して固液共存状態になった試験片を一定速度で圧縮し、その過程を実空間と逆空間で同時に観察しました。

- 時間分解X線トモグラフィー+三次元X線回折
上の画像は、トモグラフィーで得られた三次元像の仮想断面です。暗い領域と明るい領域はそれぞれ固相粒と液相を表します。圧縮が進むにつれて、変形が局在化して液相の割合が多い領域が形成しています。下の三次元X線回折による結晶方位分布の時分割解析と合わせて、試料全体がマクロに変形する際、固相粒は殆ど変形せずに、並進・回転によって配列を変えて外力に応答していることが実証されました。液相の割合が増加した領域は、固相粒子同士の力学的な相互作用が働き、お互いに離れるように運動したことで形成しています。このようなミクロスケールの固相粒の個別あるいは集団運動がマクロな力学挙動に及ぼす影響の解明を目指しています。

物理モデルに基づく時間分解X線トモグラフィーの高速化
- T. Narumi et al., Journal of Japan Institute of Light Metals, 70(2020) 339–346.
https://doi.org/10.2464/jilm.70.339
T. Narumi et al., IOP Conference Series: Materials Science and Engineering, 1335(2025) 012005.
https://doi.org/10.1088/1757-899X/1335/1/012005 - はじめに
金属材料の融液の中で起きる凝固現象を科学的に理解するために放射光X線を用いた時間分解トモグラフィー(4D-CT)が利用されています。三次元・時分割観察によって、凝固組織形成に関する貴重な情報が獲得できます。X線トモグラフィ(CT)は複数の投影像から観察試料内部の三次元構造を再構成する手法であり、一般的には光源・検出器あるいは試料を180°回転させる間に撮影した投影像データセットから再構成が行われます。4D-CTは、光源・検出器あるいは試料を連続的に回転しながら連続的に投影像を取得し、時分割で再構成する手法であり、原理はCT と同じです。ひとつの投影像データセットの取得時間、つまり、180°回転に要する時間が時間分解能を示す指標であり、投影像のピクセルサイズ(三次元像のボクセルサイズ)が空間分解能の指標になります。180°回転で取得される投影像数は再構成像の質に関係し、空間分解能に影響しています。したがって、時間分解能と空間分解能はトレードオフの関係であり、高輝度の放射光を用いたセットアップでも凝固現象を観察できる条件は限られているのが現状です。これまでの研究では再構成像の質を確保するために、時間分解能を犠牲にせざるを得ませんでした。
本研究では、時間分解能の追求により生じる画像の質の低下を凝固・結晶成長シミュレーションで利用されるフェーズフィールドモデルに基づいた画像処理によって復元させ、凝固組織形成の定量評価が可能な高速4D-CTの実現を目指しています。 - 観察試料
本研究では、実用合金であるアルミニウム20XX系合金の組成範囲であるAl-5mass%Cu合金を用いました。さらに、実際の鋳造プロセスを想定して、微細化剤(TiB2)を添加しています。 - 時間分解X線トモグラフィー(4D-CT)
図1(a)の再構成像では、明るい領域と暗い領域はそれぞれ液相と固相であり、固相が存在していることは認識できます。しかし、デンドライトがどのような形態で成長しているのか、定量評価することは困難です。その画像に対して、フェーズフィールドモデルに基づく画像処理を行ったのが図1(b)です。物理モデルによって固液平衡の必要条件を満たす画像が復元されており、デンドライトの形が明確になりました。このような画像処理後のデータを用いると三次元空間でデンドライト組織が発達する様子が図2のように取得できます。計算科学の専門家と共同で、画像処理手法の開発を進めています。

